ピクニックに持って行きたい美味しいものは?(ショートショート作品)

ピクニックに持って行きたい美味しいものは?
絵と文 なちゅらる宇宙人 Keiko Kaneda
初出『なんじゃもんじゃ』12号 2025年6月
Nanjya Monjya vol.12  June 2025

ピクニックに持って行きたい美味しいものは?
絵と文 なちゅらる宇宙人

A short story
“If you’re going on a picnic, what delicious food would you bring?”

만약 소풍을 간다면 어떤 맛있는 것을 가지고 갈래?


 

 ピクニックに持って行きたい好物を聞かれ、みかんゼリーと答えた。
 あなたなら、何?

 さて、この船の上に約100名、共に過ごしている。
 毎朝、運行に外せない業務をしている者を除き、一同に集められる。
 上官から指示された列数の通りに前から並んでいき、「じゃあ、この列の6人目まで」といった具合にグループに振り分けられ、訓練や作業をする。メンバーの相性や訓練のキツさなど、多少上官の気分に左右されつつも運の要素が絶大だ。
 そして、さすが現代。私たちの心が壊れないよう、淡い水彩イラストつきポエムも掲載されたカウンセリングシートを1日の終わりに配られる。
 誰もがその幾つかの空欄を埋めたあと、シートの左下片隅に、その瞬間が何年何月何日なのか、海上のどこにいるのかを大急ぎで記していた。それに加え、これが自分だと示すなにか……力強すぎる署名だったりイラストだったり、座右の銘を付け加える者もいる。別に指示されたわけでもなく、提出までに秒を争うが、跡を残さずにはいられない。
 数年前、人間魚雷「回天」大神訓練基地跡で見学した絵の数々。書かれた時の気持ちに重なるところがあるだろうか。

 私はここに生きている。

 今朝は凪。空は柔らかな水色。普段はランダムに列で振り分けられるはずのグループだが、指名された5名だけが皆の前に出た。
 あ!やっちゃん!
 小学生の頃、何度か同じクラスになったやっちゃんは、いたずら好きで騒がしく、私もちょっかいを出されて泣いた日もあるが、突発的に場を緩めるユーモアを持ち、憎めない。両親が離婚して私の苗字が変わったことを担任が発表した時、他の皆がどう反応していいか分からなさそうにしんとした空気の中、新しい苗字をどう呼ぶか、おどけながら楽しいニックネームを考えてくれた。
 そんなさりげない優しさを持つやっちゃんが出発する。帰って来られる保証はない。そんな状況になって、初めて水彩ポエムの魔法が溶けた。
 やっちゃん、やっちゃんと一緒に出発する人たち、指名した上官、そして残る私。それぞれの命にどんな差があるの?今もガザで虐殺されている子どもたちは? ああ、こうして……部品のひとつとなって巻き込まれるんだ。世界に消費されるんだ。美しい言葉とともに。
 上官に指示され、何か入った白いビニール袋を手渡されたやっちゃんたちは別の部屋へと消えていった。しばらくして見送りの許しが出た。やっちゃんは、去り際にこのうえなく優しく爽やかな笑顔で皆に振り返った。刺すかのごとく煌めき始めたさざ波を背景に。

 私もあと何日か。何時間か。いや?もしかすると戻って来られるのか。胸の中を黒く巨大な岩が占有して、重く硬直しつつある私の右手に、いつの間にか、やっちゃんたちと同じビニール袋がぶらさがっていた。
 白いプラの蓋の、みかんゼリーだけが入っていた。

 

 

初出『なんじゃもんじゃ』12号 2025年6月
Nanjya Monjya vol.12  June 2025

 



 この短い物語を創作した経緯について語ります。

 数年前に何度か、大分県にある人間魚雷「回天」大神訓練基地跡を見学しました。若い特攻隊員たちによる絵が飾られていました。私と同郷の鳥取県出身の隊員は、特産品である二十世紀梨のイラストを描いていました。現代の私たちと何も変わらない人間だったと感じました。しかし、殺人兵器に変えられてしまった。

 また、2025年春に、私はとてもリアルな夢を見ました。夢の中で、私は特攻隊員として船にいました。いよいよ殺人兵器へとなる直前に何を考えるのか? 私の場合は、仲間に死んでほしくないし、自分も死にたくないということでした。そして、誰もが個性を持った人間で、社会の駒ではないということ。

 夢から目覚めてからも、しばらくは恐ろしくて震えていました。後から考えてみると、夢の中で相手側の命を思いやるような余裕はありませんでした。これも、戦争の残酷さ。

 細かい描写は、私が海のそばで育ったことと、福岡市内で何度か巨大なイベントのアルバイトをした経験から生まれています。

 2025年現在、日本が再び戦争が可能な国に変えられてゆく気配があります。あなたがもし戦争に行き、人殺しをしなくてはいけないとしたら、どのように感じるのか。そして、あなたも戦争の犠牲になるとしたら?これを問う気持ちで物語を作っていたと思います。

 最後に、鳥取の講演会で聞いた、元イスラエル兵士で現在は平和活動家のダニー・ネフセタイさん(家具職人)の話を共有します。
 これまでの歴史の中で、戦争が終わった後、戦った国同士はどうなると思いますか?答えは、話し合いや交流が活発になります。
 どうせそれをするしかないのであれば、最初から誰の命も犠牲にする必要はありません。

 
As of 2025, Japan is showing signs of becoming a country capable of war again. How would you feel if you had to go to war and kill people?
And what would you think if you were to be a victim of war too?
I made this short story with the intention of asking this question.

I share what I learned from Mr. Dani Nehushtais lecture in Tottori. What will happen to the countries that fought after the war in the history so far? The answer is that discussions and exchanges become more active. If you have no choice but to do it anyway, you don’t have to sacrifice anyone’s life.


2025년 현재 일본이 다시 전쟁이 가능한 나라로 변해 갈 기미가 있습니다. 당신이 만약 전쟁에 가서 사람을 죽여야 한다면 어떻게 느끼나요?
 
그리고 만약 당신도 전쟁의 희생이 된다면 어떻게 생각하십니까?
이것을 묻는 마음으로 이 이야기를 만들었습니다.

Dani Nehushtai 님의 돗토리 강연에서 배운 것을 공유합니다.
지금까지의 역사 속에서 전쟁이 끝난 후 싸운 나라끼리는 어떻게 되는가? 답은 대화와 교류가 활발해집니다. 어차피 그것을 할 수 밖에 없다면 누구의 목숨도 희생시킬 필요는 없습니다.

 


 

ベップ・アート・マンス2025 参加企画
なちゅらる宇宙人展 vol.12
「やぎだから、ピース!」
2025年は、このサイトでのオンライン展示です。
11/8~16の会期中に作品が増えていきます。

 

Beppu art month 2025
ベップアートマンス