「優秀な国」

 

ダブルレインボー 虹 鳥取 DoubleRainbow 「優秀な国」 なちゅらる宇宙人

 

「優秀な国」
写真・文 なちゅらる宇宙人 Keiko Kaneda

A short story
“A country of excellence”

“우수한 나라”


 

 あれは、いつだったかな。
 2025年頃のことだったと思う。
 差別を煽る政治家たちが台頭し、この国の多くの普通の人たちが排外主義に流れた。外国人労働者たちは若い世代が多く、社会保障を支えていたにもかかわらず、逆に「生活保護を簡単に受給している」といったデマも広まった。

 各地でヘイトクライムが起き、社会の裏方で働いていた外国人のほとんどが他国へ移っていった。農場、食品加工、家電組立、物流、工事現場、介護施設などから外国人が消えた。少子化で追い討ちをかけられ、この国のサービスは目に見えて回らなくなっていった。インフラの老朽化は放置され、「先進国」だった面影は無くなった。

 焦った政府は、能力主義を強化した。また「強い国」にしたかったのだ。そして、人々に「国のために身を捧げる人物像」を押し付け、自由を制限し、幼少期から競争をさせ優劣をつけまくった。
 結果、子ども同士の虐めは深刻化し、悲しいことに自殺が急増した。もともと低下していた出生率は底に突き進んだ。若者たちがより優秀になるために都市に集中し、食糧自給率もさらに低下。荒れた山林で野生動物は増殖し続け、行動範囲が拡大。都会でも熊に怯え、外出が制限されるようになった。共存のバランスをとっていた猟師は高齢化し、もうほとんどいない。

 人々は徐々に気づきはじめた。能力主義とはいうけれど、今やっていることは本当に「優れたこと」なのか?
 「世界で最も謙虚で優秀な民族」とかいう、謙虚さの欠片もないキャッチフレーズ。さすがに虚しいと誰もが感じるようになっていった。

 「他より優れていることを目指すのは馬鹿馬鹿しい」という思想が支持を得て、急速に広がった。「何かにつけて優位に立ちたがる態度は、本能の暴走を抑えられない恥ずかしい有様である」という風潮は、国を変えていった。
 他者を踏みつけてでも優秀である必要はなくなったので、子どもたちの虐めも自殺も耳にしなくなった。学校では、押し付けられた教科ではなく、誰もが「好きなこと」を経由して学ぶようになり、子どもたちは苦手を補い合いながら、それぞれの研究(本来の学び)に夢中になり、共有しあった。

 昔から「差別を許さない」という信条の稀有な大人にも変化があった。成績や学歴では、悪びれなく人間にランクをつけてきたことを猛省したのだった。

 人々は敬意を持って外国人を迎え入れ、学び合いからイノベーションが嵐のように起こった。職場でも家庭でもプレッシャーが減り、苦手なことは外に依頼し合えるようになった。
 何かあると「この国から出ていけ」という短絡的な者はいなくなった。柔軟な思考からアイデアが繋がり合い、「解決」以上の結果を導きだせるようになった。

 野生動物との共存システム、難病の治療法なども確立され、マイクロプラスチックの吸引量も減った。
 だんだんと世界中の人と企業がこの国でお金を落とすようになり、税収も年金も増え、楽しみながら健康的に人生を過ごす人が多くなった。

 えーっと、2025年からここまで何年かかったんだっけ?


(Photo:2025年10月13日 鳥取駅前で撮影 Keiko Kaneda)

 



 この物語は2025年10月13〜14日に書いたもの。高市早苗氏が総理大臣になる1週間前。少子高齢化と排外主義がさらに進む未来はどうなるのかと、とある国についての、短いSF物語をつくりました。
 もちろん、ツッコミどころは沢山あるでしょう。

 この作品を作ってから、ちょうど1か月が経ちました(2025年11月14日)が、すでに高市首相は、勝手に想定した「台湾有事」に関する発言で外交問題を引き起こし、早く対応しないと中国から経済制裁を受けたり、戦争になるのではないかと心配する声がSNSやマスコミに寄せられています。私のSF作品の国より、現実は激しく急速に展開しました。
  現実のほうも、ツッコミどころは沢山あるでしょう。

 生産現場や介護など多くの分野で外国の方たちに頼っているのに、戦争になったら彼らは残ることができるのか。観光に依存度の高い地域や業種はどうなるのか。学びや楽しみに関する仕事のかわりに軍需産業で生きていくのか。自衛隊ですら求人に集まらないのに日本軍なんてもてるのか。じゃ、女性や中高年も徴兵されるのか。輸入がストップされると、実生活にどう波及するのか。熊でも手をやいているのに、核兵器をもつ大国と戦争なんてできるのか。どこが標的になるのか。

 うーん、「お花畑」なのは、戦争したくない人なのか、戦争したい人なのか。

 この物語を書いているころ偶然に撮影できた虹の写真は、よく見るとダブルレインボーになっており、ランドセルやサプリメントの看板がみえます。すべての子どもから高齢の方たちまで心が守られ、「この国」が分断から卒業できますように。

In 2025, as politicians who fueled discrimination with rumors emerged in Japan, exclusionism spread in society. Feeling uneasy, I wrote the story of this fictional country from October 13th to 14th.
A week later, the Takaichi government was formed, and in about a month, it even caused diplomatic problems with China. I think the situation is worse and faster than my science fiction story.

Japan now has a society with a declining birthrate and an aging population. Foreigners are helping the understaffed industry.
There is nothing good about war.
When I was writing this story, I happened to be able to take a picture of a double rainbow. They say that double rainbows are a sign of happiness. I want everyone’s heart to be protected with human warmth. I pray that society can graduate from division.

2025년 일본에서는 유언비어로 차별을 부추기는 정치인이 대두되고 사회에 배외주의가 만연했습니다. 불안해진 저는 10월 13일부터 14일, 이 가공의 나라 이야기를 썼습니다.
그 1주일 후에 다카이치 정권이 탄생했고, 약 한 달 사이에 중국과의 외교 문제까지 야기했습니다. 제 SF 이야기보다 더 나쁘고 빠르게 상황이 진행되고 있다고 생각합니다.

지금 일본은 저출산 고령화 사회로, 인력이 부족한 업계를 외국인이 도와 주고 있습니다. 전쟁을 해서 좋을 건 하나도 없을 것 같아요.
이 이야기를 쓰고 있을 무렵, 우연히 무지개 사진을 촬영할 수 있었습니다. 쌍무지개는 행복의 전조라고 합니다. 저는 모든 어린이부터 어르신까지 마음이 지켜지기를 바랍니다. 사회가 분단에서 졸업할 수 있기를 기원합니다.

 


 

ベップ・アート・マンス2025 参加企画
なちゅらる宇宙人展 vol.12
「やぎだから、ピース!」
2025年は、このサイトでのオンライン展示です。
11/8~16の会期中に作品が増えていきます。

 

Beppu art month 2025
ベップアートマンス

 

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【Questionnaire】
ベップ・アート・マンス2025
オンライン個展 なちゅらる宇宙人展vol.12 のご感想
(企画No.093)
https://sgfm.jp/f/c2f188bd117ee87108b5c9f535523cff